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きのうのこと

すてきなあの頃へ

想うということ

noteのアプリをアンインストールしてしまったのでここにかいておく。

ある少女の恋愛観。

タイトルはGRAPEVINE

 

 

 

 

私には好きな人がいる。

視線の先、肩までのボブカット、少し幼げな顔立ち、透き通るような白い肌。

おしとやかで清楚な女の子だ。

教室ではあまり目立たない位置にいて、いつも一緒にいる女の子たちも同じタイプ。

彼女はいつも、静かに喋る。

静かに笑って、小さな顔のサイドに垂れた髪を細い指で耳にかける。

その表情が、仕草が、まるで私とは別の生き物のように思えてくるような。

絵に描いたような「清純な女子高生」を、私はいつも、ただ遠くから眺めている。

それはもはや私の日課であり、生きる糧である。

男女問わず、恋をしている人間は誰しもがそうであると、私は思う。

いつだって、好きな人の姿を探してしまう。

視界に入ると、こそこそと観察してしまう。

今日はいつもと違う髪型だとか、お化粧の感じが違うとか、そういった微々たることにも気付くようになる。

ひょっとしたらこれはストーカーなのではないかと思うこともあるが、たぶん、見えないところで、みんなこういうことをしていると思う。

彼女の姿を追う度に後ろめたくて、ごめんなさい、と思いながらもどうしても見てしまう、気になってしまう、どきどきして、幸せで、それだけでいい、他になにもいらないから、せめてこうやって遠くから眺めることだけは許してください、なんて思いながら、胸がじんと熱くなる。

そういうことを繰り返して、ああ、私は恋をしているんだ、と気付く。

私と同じ女の子に、決して叶うことのない想いを抱いていることに気付いて、途方に暮れる。

直接話せばいいじゃない、と以前誰かに言われた事がある。

私が彼女に恋をしていることを知っている、唯一のクラスメイトに。

その子は男の子で、私と同じように、同性が好きで。

同じ学校の男性教諭とお付き合いをしている、らしい。

そして、私の好きな彼女は、その男性教諭に憧れている。

「異性よりも話しやすいでしょ?」と、その男の子は私に言った。

その時は、曖昧に答えたと思う。

「確かにそうかもしれない」と、思ったこともあった。

だけれど、そんなことは関係ないのだ。

相手が誰であれ「好きな人(しかも完全なる片想い)に話しかける」ということはとてつもない難題だ。

私は、彼女と別段仲がいいわけではない。

かと言って、全く話さないわけでもない。

実に微妙な距離感である。

彼女に話しかける時、私は人生で一番の勇気を振り絞って、そして必ず後悔する。

他愛のない話でも、委員会などの事務的な話でも、私は彼女を前にするとまともに言葉を紡ぐことができなくなる。

そんなときの彼女の少し困った笑顔が、私にとってはとても苦痛だ。

話し掛けてしまってごめんなさいうまく喋れなくてごめんなさい困らせてしまってごめんなさい、負の感情ばかりが頭を巡って、結局会話の内容を全く記憶できない。

ただ、彼女の少し強ばった笑顔が。

警戒心が透けて見える態度が。

怖い。

私は、彼女のこんな表情は見たくなかった、近寄りたいのに、踏み出す度に遠ざかるのはどうしてだろう、もやもやと考えて、好きなのに、仲良くなりたいのに、できない自分がもどかしい。

そんな彼女が一番の笑顔を見せるのが、彼女が好きな男性教諭の授業の時だ。

私は彼女のその笑顔が一番好きだった。

恋する乙女の表情だった。

きらきらしていて、純粋無垢で。

だけれど、彼女と反対側の席に視線を移すと、そんな男性教諭の恋人である男の子が、ぼんやりと見とれるように教壇を眺めている。

頬杖を突いて、目を細めて。

右手に持ったシャーペンは止まったままで。

本当に愛おしいものを見るような表情。

その少し間抜けな顔を見て、私もこんな顔で彼女を見ているのだろうか、とすこしおかしくなって、同時にとても、やるせなくなる。

彼女の恋は決して叶わない。

それをわかっていながら、彼女の笑顔を綺麗だと思ってしまう自分が酷く醜く感じる。

 

なっちゃん、また先生のこと見てたでしょ」

「えっ、わたし、そんなにあからさま?」

「かなり。先生見た時のなっちゃんの顔、めちゃくちゃとろけてるもん」

 

そんな会話が聞こえてくる。

なっちゃんというのは、彼女のあだ名だ。

親しげに話しているのは、彼女といつも一緒にいる、活発そうな女の子だ。

その子に半ば呆れ声でそう言われて、彼女は少し寂しそうに呟く。

 

「だってさあ……」

「だって、何?」

「好きだから、見ちゃうんだもん」

「ずっと見てたらストーカーみたいよ?」

「だって、わたしにはそれしかできないから」

 

ああ、と私は思う。

私は、自分の恋心を、どこかで否定していた。

同性である彼女に恋をしている自分を、彼女にときめいている自分自身を、気持ち悪いと思うことも何度もあった。

だけれど、やっぱり。

 

「いくら叶わなくても、届かなくても。好きになっちゃったら仕方ないのよ」

 

教室の喧騒を縫って聞こえてくる彼女の声が、私の脳内とリンクする。

諦めを含んだ笑みが、さらに私の心に火をつける。

 

(恋は盲目、か)

 

人を好きになること。

幸せでいてほしい、いつも笑っていてほしい、そう願うことが、れんあいかんじょうだ。

誰だって同じだ、女の子も男の子も。

彼女があの男性教諭に抱く気持ちと。

私が彼女に抱く気持ちはきっと同じで。

それが、どうしようもなく嬉しい。

恋愛に常識を求めるのは野暮で、それはきっとあの男の子だって同じことを思っているはずだ。

私はこの先もずっと、絶対、これ以上彼女に近付けない。

それでも、私と彼女の「恋」に関する考え方が同じということが知ることができて。

私は、そのとき、人生でいちばん、しあわせだと思ったのだ。

 

(貴女のことだけを考えて、私は生きている。)